フランス・パリ Week-2
最後のカーテンコールで舞台上から見る観客席の眺めは圧巻である。5階席の最後方まで満席であり、そこから立ち上がり両腕を振って喜んで下さる姿をみると、なんとも言えない感動が込み上がる。エイリーカンパニーのカーテンコールでは、最後かならずダンサー達がお客さんに向けて拍手をし感謝の気持ちを表すのだが、私達も舞台上から5階席まで届くように「ありがとう!」という気持ちを込めて、両腕を大きく振った。
今回1カ月に渡るパリ公演で私達が踊る作品の数は計18作品。毎日変わるプログラムの上、キャストも各作品変わるためその分リハーサルも毎日あり、お昼から公演の直前までリハーサルをしている。毎年12月に5週間行われるニューヨークシーズン公演並みのハードさである。
その多いレパートリーの中で、オハッド・ナハリン氏振付による「マイナス16」という作品がある。作品の途中にダンサー達が客席に下りてパートナーを選び、そのままお客さんを舞台に上げて一緒に踊るという粋な演出があり、劇場が最高に盛り上がる人気作品である。
演出上の決まりとして、ダンサー達は言葉で話してはいけない。パートナーであるお客さんを言葉でなく身体、動きで終始リードしコミュニケーションを取らなくてはならない。以前イスラエルからオハッド・ナハリンさんが来て直々に指導をしてくださった時に、この演出意図として「プロのダンサーであろうと、ダンサーではない全く普通の一般人であろうと、”ダンス”という無言の言葉によりコミュニケーションを取ることが出来る、動きによって心を通じ合えることが出来る。ダンスとはそんな素晴らしいパワーを持ったものだということをこの作品で表したい。」とおっしゃていた。素晴らしいなぁと思った。
エイリーカンパニーの根本的な理念は、「ダンスは人々からきたものであり、人々にかえされなければならない」というエイリー氏の言葉にあり、ダンス界を超えたダンスを通しての一般社会貢献にある。このお客さんを舞台に上げて一緒に踊る「マイナス16」は、そのカンパニー理念を象徴する作品のひとつであると思う。2011年にエイリーカンパニー新芸術監督に就任したばかりのロバート・バトル氏が、最初にエイリーレパートリーに取り入れたのがこの「マイナス16」であり、エイリー理念を把握したズバリの選択に、さすがだなぁと感じたものだ。
今回私がピックアップしたパートナーは中年のフランス人女性。一見おとなしく見えたこの方も、舞台に上がるなり大興奮で踊りまくってくれた!最後になって別れの時にようやく言葉を交わすことが出来るのだが、「最高の時間を過ごすことができた、本当にありがとう、メルシーボック!」と言い(理解できないフランス語で多分そう言っていたと思う、笑。笑。)、大満足して舞台を下りて行った。


